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「まずい給食」はなぜ配られたのか 読売オンライン 深読みチャンネル



女子栄養大名誉教授 金田雅代
2017年10月29日 読売新聞社

神奈川県大磯町の中学校でデリバリー式の給食が大量に残され、社会問題となった。虫や髪の毛などの異物混入が一因とされたが、そもそも大半の生徒が「まずい」「見た目が悪い」と以前から感じていたという。9月には岐阜市の小学校で、給食を残さず食べるように指導された児童が 嘔吐したケースも明らかになった。学校給食の現場で今、何が起きているのか。管理栄養士として学校や保育園の給食に、30年携わった経験を持つ女子栄養大名誉教授の金田雅代さんに、問題の背景と解決策を聞いた。2回にわたって掲載する。(聞き手 読売新聞メディア局編集部 河合良昭)

“うまみ”のないデリバリー式

学校給食は子どもたちが対象なので、衛生管理のルールは非常に厳しく定められています。学校の給食室や給食センターで作る食材は「当日納入、当日調理」が原則。食材を納品した時から品質、生産地、鮮度や異物混入の有無などを点検し、野菜は表面に付いている汚れや異物、微生物などを取り除くため、別々のシンクで3回洗うことなどが、学校給食衛生管理基準に示されています。さらに調理場は、食材の搬入から調理、搬出までが一方通行に流れるように設計され、肉と野菜ではまな板や包丁を分けます。こうして調理器具や調理する人の手などを経由して食品に菌が移ってしまう「二次汚染」を防ぐ対策が徹底されています。
異物混入を防ぐため、金属探知機を設置して万全を期す施設もあります。これには一定の広さの場所が必要ですし、一定額の設備投資も必要です。デリバリー式の給食を作る民間の業者でこうした施設整備ができる数は限られると思います。衛生管理の面でも、給食センターなどと同じような運用ができる業者は多くないと思います。
学校給食は、子どもの空腹を満たせばよい、というものではありません。大事な成長期に必要なエネルギーや栄養素を摂取することも重要な目的の一つで、摂取基準も定められているので献立(メニュー)がカギになります。デリバリー式の場合、その献立作成は教育委員会の管理栄養士などが行います。業者が献立を作ることはできません。つまり、業者はその時に安く仕入れられる食材を使ったり、一般向けの弁当の食材と同じものを使ったりして、大量購入でコストを抑えることはできないのです。給食の実施は年間約190日しかなく、民間業者が給食に合わせて施設を改築し、運用を変えることは現実的ではないでしょう。業者にとって、経営的にはまったく“うまみ”のない仕事だと思います。

自治体の厳しい“台所事情”

そんなデリバリー式に、自治体が頼ろうとするのには、いくつかの理由があります。まず、学校に給食室を設けるスペースが少ないことです。現代の食事に対応しようとすると、焼き物用の機械、蒸し物用の機械、揚げ物用の機械をそれぞれ取りそろえることになります。また、先ほど述べたように一方通行の動線を確保することや作業区分に合わせた施設や設備を造るにはそれなりの広さが必要です。給食センターの場合は、老朽化して建て替え時期が来ていても、財政難を理由に改築できないケースがあります。

なぜ「まずく」なるのか?

大磯町のケースでは給食が冷えていたことが、生徒たちが「まずい」と感じた理由の一つでした。デリバリー式では基本的に冷したものしか配送できない。それには理由があります。
学校給食は調理してから、子どもの口に入るまでは最大2時間まで、というルールがあります。2時間を過ぎると、急激に食中毒菌が増殖する可能性があるからです。児童・生徒の数にもよりますが、業者の多くが、大量の弁当を2時間以内に学校に届けるのは難しいのが現状です。従って、菌が増殖しにくい10度以下の温度で配送しなければなりません。だから冷たい給食になるのです。

デリバリー式の給食では、野菜がよく残されます。給食では野菜の使用すべき量も示されており、それを目安に副菜と汁物の具に分けて使います。汁物に入った野菜の方が子どもには食べやすいことが多いのですが、デリバリー式では搬送上の関係から汁物が付いていないことがほとんどで、弁当箱に副菜を多く詰め込まなければならないのです。

家庭の食生活も影響

一方、給食が「まずい」理由として、塩味があまり強くない薄味であることをあげる人がいますが、これには同意できません。子どもが塩分を取りすぎないように配慮して、味付けをしているからです。こうした味に慣れておくことは将来の生活習慣病の予防にもつながります。また、薄味なら、食材そのものの味を楽しむことができます。
 食材の質を落とさざるを得ないこともあります。食材の購入費用は給食費として保護者から集めますが、その平均額は小学校中学年で月4306円、中学校で月4921円(2015年、文部科学省調べ)、1食にすると250~290円です。この範囲で必要な栄養を取ることができる給食を作ろうとして現場は苦労しています。食材費が値上がりすると、まずはデザートや果物などをなくして対応しますが、それでも足りない場合は、さらに安い食材でやりくりすることになり、それは食材の品質を下げることにもつながります。品質を上げられない上に薄味となれば、生徒たちがそれを「まずい」と感じるのも仕方ないのかもしれません。
ただ、薄味を「まずい」と感じるようになったのは、家庭での食生活の変化も影響していると思います。子どもたちに話を聞きますと、夫婦共働きの家庭が増え、忙しい中で食生活が変わっていることがわかります。朝は簡単なパン食で済ます、または食べないという子どもがいます。夜は親が仕事帰りにスーパーで買ってきた総菜、コンビニ弁当を自分で買うという子どももいます。そして休日は外食。こうした食生活では、濃い味に慣れてしまい、味覚形成の大事な時期なのに食材そのものの味がわからないまま育ってしまう可能性があります。せめて休日ぐらいは、家で子どもと料理を作るなどして、食材との出会い、素材そのものの味や食べることの楽しさを親子で体験してほしいものです。

給食は「ファミレス」ではない

給食を巡る問題では、居残りで食べさせられた児童が、吐いてしまったというニュースもありました。これを聞いた保護者の中には、給食でも好きなものだけを食べさせるべきで、嫌いなものを食べさせるのは良くないと考える人もいるようです。
アレルギーが出るものは別ですが、そうした問題がない場合は嫌いな食べ物も克服しなければならないと思います。一つだけで必要な全ての栄養素を満たせる食材はないので、様々な食材をバランスよく組み合わせて食べる必要があります。給食指導では、初めはほんの一口から始めて、嫌いなものを克服しようとさせます。「吐くまで」食べさせるのはかなり特殊なケースで、多くは根気よく子どもに指導しています。
嫌いな料理や食材がある子どもは、実はそれまでに食べたことがなかったというケースも多いのです。こうした子どもの家庭では「何を食べたい?」と聞き、好きなものだけを食べさせているケースがあります。給食費という“料金”を払っているのだから、ファミレスのように外食の一つと考え、好きなものだけを食べればいいと考えているなら、それは間違っています。
学校給食では子どもたちを様々な食材と出会わせることや、食事のマナー、食器の使い方、配膳や後片付けなど、本来は家庭で親が教えなければいけないことも指導しています。共働きの家庭などで忙しいから、手軽に食事を済ませたいという考えも理解できます。だからこそ、朝と夜の食事では足りていない栄養を給食で補おうとしているのです。保護者の方たちにはこうした給食の役割を知ってほしいと思います。

食育で味覚に変化も

2005年から国も食育に取り組み、状況は少しずつ変わっています。厚生労働省の国民健康・栄養調査では、1日の食塩摂取量(20歳以上)が2006年から16年まで毎年減り続け、10年間で1.3グラム減少し、少しずつですが薄味になる傾向が出ています。私は学校における食育も成果の一因にあると思っていて、「薄味がまずい」という意識にも変化が出てくることを期待しています。


プロフィール
金田 雅代( かねだ・まさよ )
1944年、岐阜県生まれ。同県多治見市で管理栄養士として学校や保育園の給食に30年携わった後、文部科学省の学校給食調査官、女子栄養大短期大学部教授を務めた。